伊万里フェノロジーカレンダーの完成と2017年度の取り組み
とうとう、伊万里市をフィールドとしたフェノロジーカレンダー(地域資源の季節暦)が完成しました。2016年度末に編集を完了していたのですが、改めて調査コーディネートをしていただいた伊万里市生涯学習課の方々やヒアリングに協力していただいた地域の皆さんにフェノロジーカレンダーをお配りし、加筆・修正をお願いしていました。その加筆・修正を反映させたものが、この度できがった次第です。
本当に調査にはたくさんの方々にご協力いただきました。本当に感謝です。
そして、学生さんもほぼほぼ留学生で聞き取りが大変だったであろうにもかかわらず、頑張りました。
このカレンダーの修正作業は、7月14〜16日のリノベーションスクールin伊万里の開講に合わせて行いました。伊万里を知ってもらう媒体として活用していただけるのではないかという話になったためです。私はその場に参加できなかったのですが、コーディネーター・アドバイザーとして参加されていた講師の方々に、短時間で地域のことがつかめるということでご好評いただいたようで、嬉しい限りです。
さて、本年度は、三島美佐子先生との合同演習授業として、伊万里に関わるきっかけとなった前田家住宅の活用のための基礎調査に、学生さんとともに取り組んでいます。文化財としての建築物の調査はすでに完了しているので、趣ある空間、調度品や庭園など、活用視点で魅力的だと思う箇所を視点採集をしています。活用には、新鮮な目で、その可能性を見い出すことが大事。ユーザー感性学という分野を学ぶ学生さんの自由な発想で、自分の目で前田家住宅を観察し、自分の言葉でその魅力を他者と共有するフィールドワークです。
民具を整理(リストのチェックと、タグの張り替えなど)しつつ実際に触れ、使用方法を聞き取りしながら活用を想像していきます。前田家住宅には、当時の生活を知ることができる民具(養蚕の道具、調理具、壺や桶、石臼、照明器具、昔のお風呂など)が数多くあってとても面白い。
この時は、母屋ではお茶会が開催されており、主催されていた方のご好意で、私たちも体験させていただくことができました(写真は三島先生が撮影されたもの)。みんなでお作法を教えていただき、ドキドキしながらお茶をいただきました。奥ではお花も展示されており、質素ながらも可憐で品のある作品を楽しむことができました。
また、宿泊する空間としての問題点や可能性を探ってみようということで、お試しお泊まりもさせていただきました。夜は、伊万里市役所、伊万里市民図書館、佐賀県庁、NPOまちづくり伊萬里、地域おこし協力隊の方々との懇親の場も設定していただいて大盛り上がり。夜の静けさ、朝の気持ち良さ、空間のポテンシャルを最大限楽しむことができました。
みんなで朝ごはん。
縁側にみんなで座ってお茶をしたり。
非常に贅沢な時間でした。
今後は、私たちなりの視点採集の成果や、調査や滞在の中でわかった課題を、伊万里にお住まいの方々と共有できるようにまとめるとともに、伊万里市民図書館で企画展をできないかと構想中です。リノベーションスクールで提案されたように、所有者の前田さんだけでなく、これからは地域の宝としてみんなで維持管理に関わっていくことが必要です。私たちが感じた前田家住宅や伊万里市の魅力を発信していくことで、活用のお手伝いができればと思っています。
伊万里での調査
伊万里といえば、伊万里焼が一番頻出する回答でしょうか?
この写真は、私の実家にあった伊万里焼です。
(裏の糸底の部分に描かれている銘からネットで調べました)
祖父母から引き継いだもので、実家の父・母ともに「なんでも鑑定団」というテレビ番組が好きなのですが、「うちにあるお皿、鑑定してもらってみたいね〜」なんて言っています。
そして、これが私が伊万里にて絵付け体験をして作った、蕎麦猪口です(笑)
何事も体験をしてみるのは大切で、いかに伊万里の絵付けが繊細で、とても技術が高いものか、集中力が必要なものなのかが身をもってわかります。
ちなみに、絵柄は、私の好きなカラーというお花を選んでみました。
改めて、なんて大雑把な作品・・・
そして、私も銘を入れたい!と思い、入れたのがこれ。
徳利とお猪口をモチーフにしてみました。
伊万里には、昨年の2月から通い始めて、はや13回目。
美瑛で3年かかっているフェノロジーカレンダーの作成を、PTLを受講している学生さんとともに1年で作ってみようというある意味無謀な企画で、地域資源調査を行っています。
調査の調整をしていただいている伊万里市教育委員会の方々、そしていろいろなお話を聞かせていただける方々には本当に感謝です。
これまで、公民館単位でお住まいの方に集まっていただいたり、漁師さん、お茶・黒米・伊万里牛などの生産者さん、農協の職員さん、大川内山のおかみの会の方などなど、50名以上の方々に聞き取りを行ってきましたが、今回13回目にして初めて、伊万里焼の職人さんに話をうかがいました。
お集まりいただいたのは3名の若手職人さん。
それぞれに大学進学(製陶とは実質関係のない学問分野)や社会人経験を経て、子供の頃から当たり前だった伊万里焼の良さを再発見されて、製陶技術を学び、入社されている方々でした。
実際に伊万里焼を作り、それをお客さんに販売されている方々のお話は、想像以上に面白い!
まず、窯元さんや職人さん(作家さん)で非常に多様性があること。伊万里焼も伝統的な技法を受け継いだ作品を作りながらも、大学で学んだことを生かして新しい作品づくりを行っている方もいらっしゃれば、商社と商品開発を行っている方もいらっしゃる。そして、それぞれに製陶する上での、好き/やりがいを感じる工程も違う。ろくろでの成形が好きという方、細かな模様を絵付けすることが好きな方、また、消費者のニーズを把握した上で、伊万里焼らしさを出しつつ、コストを計算しながら商品のデザインを考えることが好きな方。
また、それぞれに作家活動をしながらも、ある程度「産業化」することが必要という話も、興味深いものでした。ここでいう産業化とは効率良く量を作るということ。実は、伊万里焼は、土の採取や生地づくりから全て行っている小鹿田焼(大分県日田市)とは異なり、ある程度分業しています。やはり好景気だった時から製陶量が1/6程度になっている中で、専門で生地づくりを行っている協力会社さんが減少している。その協力会社さんに、安定して経営をしてもらうためにも、産業としての量が必要だということなのです。
あと、お客さんとのコミュニケーションのお話も面白い。それぞれの窯元のリピーターは、作品を作家さんの人柄やライフスタイルとともに購入しているというのです。そういった方々は展示会などでも、会場の入場料(結構な金額です)を払っているにもかかわらず、お土産を持って会いにこられるとのこと。つまり、生産者・消費者という関係性を超えて、人と人との繋がりになっているということ。私は「おもてなし」という言葉があまり好きではないのですが、なぜ好きではないかというと、そこに「お客様は神様です」的な発想が透けて見える気がするから。でも、白川村で話を聞いてもそうですが、昔から好きで通っている方(ヘビーなリピーター)は、地元の方と、お店の人・お客さんという関係を超えた人間 対 人間の関係を結んでいる。お互い、人間としてされて嬉しいことをする、というシンプルなコミュニケーションが、最も良い関係なのではないかと感じるのです。まさに、伊万里の窯元さんは、そういう関係をお客さんと結び、お客さんが完全にファンとなっている。
また、肥前エリアは、有名どころの窯業地域が分布していますが、有田焼・波佐見焼・伊万里焼のそれぞれの商品展開の違いと、それがどういった要因で違いが生まれているかについても、教えていただきました。例えば、近年、波佐見焼をおしゃれインテリアショップや雑貨屋さんで見ることが多かったり、友人のSNSで波佐見に行ったり、波佐見の焼き物を買ったという投稿をチラホラ見ていましたが、波佐見焼のもともとの生産体制や、地元商社があるからこそ可能なブランド展開が背景にあったことは全く知りませんでした。窯業地域でそれぞれに条件が異なる中で、伊万里焼をどう地域で継承していくか真剣に考えていらっしゃって、そのアイデアは、非常にクリエイティブ。
まさに我々が今回聞いた話は、「今の伊万里焼」そして「将来の伊万里焼」の話。
伊万里焼の歴史や特徴だけではない、人の思いを含む「生きた伊万里焼」を紹介できるようなものにしていきたいな、とふつふつと感じています。
言うは易しで、編集作業はこれから。学生さん、最後までついてきてくれるかしら、という不安を抱きつつ、エイヤ!と紙面のデザインをこれからの2か月間で行っていきます。
石垣島&竹富島
と書くと、まるでバカンスに出かけているようですが、プロジェクトです。今年度より、竹富町からの受託研究で、竹富島の景観マネジメントの研究に取り組むこととなりました。今回は3回目の打ち合わせと資料収集。
竹富島に最初にうかがったのは、もう10年以上前のこと。時が経つのは早い。学部4年生の時に、仲の良かった同級生と先輩が在籍していた研究室のゼミ旅行に、違う研究室であったにもかかわらず(笑)参加したのがきっかけでした。夏休みの暑い季節。伝統家屋を一棟お借りして、合宿スタイルで滞在をし、地元NPOに勤めていらっしゃった先輩の仕事のお手伝い(私は古い瓦を叩いて、使えるものと使えないものとに分別する作業や、御嶽のお掃除を担当)をしたことを覚えています。
そして、夜、その研究室の先生が、地元主催の勉強会でプレゼンテーションをしたのを見て、急遽、修士からの所属研究室を変更したのが、経過的に今の私の原点となりました。なので、竹富島に行かなかったら、全く違う人生を歩んでいたと思います。ゼミ旅行に誘ってくれた先輩に感謝するとともに、参加した自分の図々しさを褒めてあげたい。だって、そうでなかったら、白川村にも決して関わることがなかったから。そう思うとゾッとします・・・。というわけで、竹富島のことを主体的に研究する機会を得られたのは、私にとって特別なことです。
個人の考えですが、研究者として地域に貢献できることなんて、本当に限られている。私ができることと、地元の方から教えてもらうことを比べたら、圧倒的に後者の方が多いことばかり。もちろん、歴史や、祭りなどの伝統について教わることも多いのですが、最も印象的なのは、それらを自分の人生や地域の中に、どう位置付けているのかということ。それは、「文化財保存」や「文化遺産の保護」という言葉では決して表現できない、迫力と、生々しさと、説得力がある。理論ではなくて、島の中で暮らすことの酸いも甘いもひっくるめた経験の中からの言葉で、絶対、金銭的な価値には置き換えられないし、自分の世代だけの話ではなく、先祖から将来世代まで、長いスパンを見据えたもの。うまく表現できませんが(というか表現できたところで意味はない?)、そういった人や思いに触れられることが、最も研究のモチベーションになっている気がします。
さてさて、これからが本番です。
伊万里市にうかがってきました②(プロジェクトキックオフ!)
伊万里市のプロジェクトを本格的に開始するにあたって、総合研究博物館の三島先生と学生さん有志とで伊万里市に伺ってきました。
早く到着したので大川内山にて見学後、「とき里」にて伊万里牛が乗ったおうどんやお蕎麦を堪能し(オススメです! 先日はマグロ丼を頼みましたが、それもまた美味。)、伊万里市民図書館にて打ち合わせ。
この図書館、非常に先進的な取り組みを行っていることで有名なようです。教育学部門でご一緒させていただいている岡先生にお話しを伺ったところ、市民参画で、市民が気軽に読書したり、仲間とおしゃべりしたり、将棋などの趣味を楽しんだり、伊万里のことを学んだりできるように計画されたそうです(だから伊万里「市」図書館ではなく、伊万里「市民」図書館とのこと)。本棚は低くなっていて、外の光がたくさん入り、司書さんはとっても親切。郷土資料を探索しに、先日訪れた際にも温かくご対応いただきました。※この図書館については、『つながる図書館 コミュニティの核をめざす試み』(ちくま新書)に、武雄市の図書館とともにレポートされているようです。
その後、伊万里市役所で窓口となっていただいている文化財のご担当者の方と合流し、伊萬里まちなか一番館へ。この日のメインイベントであるプレゼン会です。
伊万里では、今、様々なまちづくりの取り組みが生まれています。一つは空き店舗のリノベーション。「東京R不動産」の馬場正尊さん(伊万里ご出身とのこと!)と一緒に、勉強会を開催しているとのこと。もう一つは「夢を叶える未来塾」という若者の人材育成の取り組みです。若者が福岡や関西に流出してしまう現状がある中、伊万里で何かしてみたい!と思う人を応援する全5回のレクチャーが今年度は開催されます。既に、定員近い応募があるとのこと。
プレゼン会は、そういった活動に携わっている伊万里市役所の方々と、NPO法人まちづくり伊萬里の方々と、これまでに取り組んできたことや、これから取り組みたいと思っていることを共有する会です。九大チームも企画を提案し、協力をお願いしました。
プレゼン会の中では、伊万里の地域資源の発掘や活用を検討する上で参考になる事例として、北大時代に石黒先生がTime out社や札幌市などと取り組んでおられた行動誘発型パンフレットを作成した取り組みや、真板先生と一緒に美瑛町で作成しているフェノロジーカレンダーについて紹介しました。でもゴールは、これらの取り組みを真似してパンフレットを作ることでもカレンダーを作ることではありません。伊万里ならではのユニークさや、伊万里で出会える人や物、体験できることを丁寧に見つけ出し、共有すること。そして、一緒に面白がって地域で活動する仲間を見つけること。伊万里のオリジナルの活動として展開できればと思っています。
プロジェクトは今始まったばかり。これから伊万里でいろいろな人と繋がり、面白い物やことと出会うことができるのが楽しみです。
美瑛町をフィールドにフェノロジーカレンダーを作っています
美瑛町というと、皆さん何を思い浮かべるでしょうか? 波のようにうねる丘の連なりでしょうか? それとも農地の中に立つ樹木でしょうか? はたまた最近美瑛を知った方は、「青い池」と答えるかもしれませんね。
ちなみにこの写真は、美味しいソフトクリームが味わえる美瑛ファームの風景です。
現在美瑛町では、今後の観光のあり方について構想する計画を策定するために、観光にかかわる様々な調査を行っています。その一つがフェノロジーカレンダーの作成です。
フェノロジーカレンダーとは、北海道大学観光学高等研究センターの真板昭夫先生の指導のもと、全国様々な場所で作成されている季節暦のことです。カレンダーというと1ヶ月毎にめくるものを想像される方も多いかもしれませんが、このカレンダーは1月から12月までを一つの表で表し、その中に、植物や動物、風景、祭礼行事やイベントなどがどの時期に見られるものなのか、野菜などの生産物の場合はどの時期が旬なのかがわかるように示したものなのです。
真板先生の授業は非常に実践的で、履修している学生さんとともに、このカレンダー作成に取り組んでいます。
作成の過程では、もちろん掲載する資源について知らなければならないので、美瑛町のことが記述されている様々な文献を読んだり、行政の職員の方々、美瑛町で農業を営んでいる人、美瑛で採れた食材で美味しい料理をつくる奥様方などから直接お話をうかがったりします。そんなこんなで2年がかりで調査をしてきましたが、ようやく編集作業に。
カレンダー内でどんなイラストや写真を掲載するか、パンフレット全体の構成などを考えています。
実際に、この授業の中では履修生一人一人が、聞き取りをエピソードとしてまとめる作業も行なっています。最初は文章もたどたどしかったのが、聞き取りを進めることで自分の中での美瑛像が具体的になるからか、魅力的な表現がたくさん出てくるように。これには私もたまげました。
編集作業でもたくさんのアイデアが出てきます。フェノロジーカレンダーのいいところは、みんなが参加できるということ。基本的に、自然の移り変わりと人々の暮らしとの関係性を表現するものなので、誰しもが関心を持つことができるのです。きっと、これから関係部局の方々に意見をもらっていく中で、より面白いカレンダーになっていくことでしょう。
最初に、いくつかの知名度の高い美瑛町のイメージを挙げましたが、これは極々一部であり、美瑛町には語るべきものがたくさんあることがカレンダーを通じて共有されるといいなと思います。