ベネディクト・アンダーソン著・加藤剛訳 『ヤシガラ椀の外へ』

Posted by on 1月 2, 2016 in

アメリカの政治学者(だが、中国生まれのアイルランド人)であり、東南アジアの地域研究がご専門のベネディクト・アンダーソン。惜しくも昨年12月、インドネシアのジャワ島にて享年79歳で亡くなりました。たまたま前職の飲み会の席で紹介してもらって読み始めた本であり、お恥ずかしながらそれまで著者のことを知らなかったのですが、今まさに読むべくして読んだ本でした。びっくり。

「研究」を本質的に理解するためには、その研究をおこなった人の生い立ちや、過ごした時代や、出会った人や、出会った地域(そしてその地域の歴史、文化、政治的な動き等々)についての理解が欠かすことができない。そのぐらい研究とは、様々な背景を背負ったものであるし、冒険的に新しい価値観を提供するもの。普段、自分が行っている研究が、いかに「その場の事実切り取り型」か…ということを反省。これまでだったら、分野が異なるから…と言い訳をしてきたかもしれませんが、私がぶつかっている壁は、まさにこのことへの思慮のなさだったのだなと確信。

また、大学教育のあり方が問われる時代。九大に着任してから様々な会議に出させてもらうことも多くなりましたが、大学のミッションって何なのか?、教員ってどう行動するべきなのか?、今存続を脅かされている人文社会系の学問とは何なのか?、一方で自然科学系の学問はこのままでいいのか?、そもそもディシプリンって何なのか?、学際的研究が推奨されるのはなぜなのか?、大学の人事ってどんな仕組みなのか?、少子化や外国人の留学生の増加をどのように捉えていけばよいのか?……取り上げるとキリがない多くの「?」にぶち当たっていました。それを考える上での糸口がたくさんこの本には書かれています。しかも、これまでの歴史も含めて極めてわかりやすく、そしてこれからのヒントもたっぷりに。

そして、研究とは、人々(家族、友人、研究仲間、師などなど)、場所(出身地、育った国、大学、研究フィールドなどなど)、機会(時代背景、政治や政策、チャンスなどなど)の出会いによって成り立っており、それらと出会った幸運に感謝しなければならない。これにかんしては、私も同感。でも年齢を重ねる中で、これからもそう思い続けていられるのか。そういった出会いを楽しんでいけるのか……

ヤシガラ椀の外へ出られるかはきっと個人次第だけれども(私含む)、外を意識することには確実になる、オススメの本。