伊万里市にうかがってきました
佐賀県伊万里市。焼き物で有名なまちにうかがってきました。今回うかがうことになったきっかけは、九州大学芸術工学専攻とユーザー感性学専攻の二人の先生方のお誘いをいただいたことでした。異なるご専門の先生方とご一緒させて頂くのは楽しいですし、勉強になります。
伊万里は行ったことがなかったのですが、箱崎から車で1時間30分強です。近い。佐賀県の文化財課の方と共に、伊万里市教育委員会の方にご案内いただきました。
今回の目的の一つが、この前田家。
登録文化財になっている旧庄屋さんのお宅です。茅葺・くど造り(一見、L字型に見えますが、非常に複雑な屋根の構造となってるのです)のこの地域の最大級の家屋となります。
今は水が引き込まれていませんが、池泉式の庭園も広がっています。写真は、ストーンサークルのような庭の一部。おそらく円状に水が巡っていたのでしょう。とても大きな椿の木もあり、季節の良い時に再び訪れたい空間でした。
裏には畑の空間も広がっています。ここで採れた野菜が食卓に上っていたのでしょうか。畑の背景に見えるのは土蔵です。茅葺屋根の主屋に土蔵が幾つか接続しています。江戸後期から明治後期まで発展し、今の形になったのです。
これは水車小屋の壁です。このように貫が壁に縄で括りつけられている構造が珍しいのではないかということでした。私も初めて見ました。伊万里の家屋ではこのような構造が見られるものが複数棟あるそうです。
内部も見せていただきましたが、現在も管理が行き届いており、大切にされてきた建物であることがわかります。襖や障子などの建具も古いものが残されている他、欄間などもダイナミックなデザイン。加えて、焼きものなどの調度品や生活用品が数千単位で家屋と一緒に受け継がれているのです。
問題となっているのはこの家屋の活用です。維持管理にはお金がかかります。屋根や軸部の修理が必要な時もこれから出てくるでしょう。どのような活用をすれば、この家屋を後世に継承していけるのか。重要な課題です。
伊万里駅周辺を歩いてみると、正直、伊万里津として栄えた当時の姿を残しているという印象はありません。でも丹念に歩いていくと、そういった歴史を残す家屋を見つけることができます。看板建築の裏側は、土蔵造りのままだったりすることも。
これは白壁土蔵の建物が4軒連なっている場所(実は土蔵風に修景されたものが一棟ありますが)。この通りは、焼き物問屋が建ち並んでいました。手前から2軒目は、陶器商家資料館として活用されている「丸駒」。
今回教えていただいた知識ですが、伊万里でつくられた焼き物は、小石原焼や小鹿田焼などの生活用の器ではなく、将軍家に献上されていたものでした。実は、もともと伊万里では焼き物をつくっておらず、伊万里津と言われ、有田焼や波佐見焼の積み出し港として栄えていました。つまり、伊万里津から来た作品だから伊万里焼と言われているけれども、それは有田焼や波佐見焼だったのです。この当時のものを「古伊万里」として伊万里焼とは区別しています。
その後、技術やデザインが盗用されることを恐れ、伊万里市内の管理のしやすい谷地に鍋島藩御用窯が移されます。それが大川内山(おおかわちやま)です。そこで将軍家に納めるためにつくられていたものが「伊万里焼」だったかというと、それも違って、それらは「鍋島焼」と言われていました。複雑・・・。伊万里焼と言われ始めたのは、廃藩置県後に民営化されてからなのだそうです。
現在の伊万里焼も鍋島焼と言われた時代の技法を受け継いだものなので、非常に高価。今回、伊万里焼が販売されているお店にはいかなかったのでいくらぐらいのものかわかりませんが、伊万里に住んでいた方はどんな器を生活の中で使っていたかというと、波佐見焼などだったそうです。
これは丸駒で展示されているのですが、積み出しの際に、割れないように磁器を包んだものです。品物に合わせてこのように美しく梱包する専門の職人がいたとのこと。こういった、焼き物の周辺の技術や生活文化のようなもの、もっと掘り起こしていきたいところです。
このように、いまも伊万里焼を卸しているお店が残っていたりもします。
最後に、この写真。
ディープな伊万里を!ということでご案内いただいたのですが、スナックやパブなどが立ち並ぶ通りの写真です。どの地域でも、飲み屋さんはありますが、かなりの密度・エリアで広がっています。お話を聞くと、有田などの市外からも飲みに来られるそうです。残念ながら、先ほどの白壁土蔵が立ち並ぶ商店街エリアは、シャッターが閉まったままのお店が非常に多く、少し寂しい雰囲気なのですが、一本道を入ると夜の盛り場が広がっている…まだ日が昇っていたので、閉まっているお店が多かったですが、是非夜歩いてみたい路地がたくさんでした。
今、若手を中心としたリノベーションなどの取り組みが始まっているというお話もうかがうことができ、今回お誘いいただいた先生方とともに、前田家の活用を核としながら、伊万里のまちの面白さを引き出せるようなことに少し携わっていけたらなと思う次第です。